40歳で不妊治療をやめた女性の過去。“妊娠陽性”から5日後…
産まないことは「逃げ」ですか④
胎嚢だけで心拍が見えず=「稽留流産(けいりゅうりゅうざん)」
この頃、仕事をセーブするという考えはなく、むしろ気を紛らわせたくて、通常以上に仕事をしていた。取材に行き、対談に出て、原稿を書き。そうでないと、自分の腹の中のことばかり考えてしまって、仕方なかったから。
妊娠週数でいえば、5週1日。この妊娠週数って、よくわかっていなかったけれど、妊娠する前の生理から数える。「え、まだ仕込んでいないのに?」と思っちゃう。これ、妊娠した人は知っているだろうけれど、妊娠の「に」の字も考えてこなかった私は、ひどく感心した。毎月生理で苦しみながら、妊娠については何も知らなかったと思い知らされる。
そして、次の検診日。胎嚢は2倍になっているが、心拍が見えない。超音波で心拍が見えないと、育っているのかどうかわからないと言われる。不妊治療のクリニックの医者は、患者を決してぬか喜びをさせないよう、言葉選びにはとても慎重だ。下手に温かい言葉をかけるでもなく、冷たくあしらうでもなく、絶妙な温度と湿度で接してくれる。このクリニックでよかったなぁと思う。
それから5日後。超音波で見ても、胎嚢だけで心拍が見えず。血液検査の結果も妊娠を継続している状態とは言えないほど、数値が下がっていた。胎嚢だけできて中身が育たない「稽留流産」だった。
クリニックで、たくさんの女性がいる中で、泣いた。
〈『産まないことは「逃げ」ですか?』(著・吉田潮)より構成〉
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